岐阜新聞の素描欄にて2018年9月~10月の毎週土曜日、全9回で掲載された庭文庫店主百瀬実希の文章を紹介します。

恵那に越して来て二年半が経った。庭文庫が開店して今月末で半年になる。遠くに住んでいる友達に「田舎に住めるっていいね」と言われることもあれば「やっぱり都会の方が良くない?」と言われることもある。どちらに対してもそうだなぁと思う。

恵那の冬はすごく寒いけれど、朝の澄んだ空気はなんだか気持ちが良くてここに住んでて良かったなと思うこともあれば、暖かい故郷が恋しくなる日も、誰も知り合いのいない街に行きたくなる日もある。どの土地も何かが欠けていて、何かが充足している。私にとって都合の良いことばかり起こる土地は世界中探したってどこにもない。今ここに住んでいるのはたまたま好きな人がいたから。最初はそれだけの理由だったけれど、少しずつ見えてくる街の横顔に毎年どきりとしている。

「永久の未完成これ完成である」と語ったのは宮沢賢治であった。恵那で私が楽しく暮らすには古本屋が急務であった。それを誰もやっていないから私達がやろうと思った。そんな風にやろうと思える余白が恵那にはあった。古本屋以外にもこれがあればいいのになと思うことは沢山ある。映画館や素敵な雑貨店や夜までやっている落ち着けるカフェがないことが寂しい。きっとそのうち誰かがやってくれると思う一方で、完全に満ち足りた街になることは絶対にないのだろうとも思っている。

永久の未完成という言葉は諦念でもありながら希望でもある。私自身を含めた何もかもが未完成のままはじまり、未完成のまま続いていくというのはとても楽しみなことに思えてしょうがない。

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【素描第五回】無職の側には美しい山と稲穂があった
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【素描第七回】出張古本屋として活動していた頃のこと
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