『最後の旅』という写真集を、今、うちの店で、推しています。以前に僕らの家族写真を撮ってくださった、写真家の高重乃輔さんの初めての写真集です。高重さんのおじいさまとおばあさまが、生まれ故郷である、種子島から、老齢により福岡県へと移住されることになった、2年間ほどの写真をまとめた、写真集です。以前一度、東京は新宿、ニコンプラザにて展示されたこの作品に使われた写真たちを、庭文庫にも、展示してくださることになりました。日程が確定しましたので、ひとまず、告知を。ぜひ、観にきてほしいです。
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高重さんのことや、この『最後の旅』のことなどを知りたい方は、よかったら、高重乃輔、最後の旅などと入れて、ググってみてください。インタビュー記事などもいろいろと出てきますので。
初めての写真集とはいえ、彼の写真家としての活動歴は長いです。大学生時代の、アフリカ諸国への旅をきっかけに、写真をはじめられ、早稲田大学を卒業後は、中日新聞社に入社。カメラを手に仕事をされ、撮影スタジオ勤務などを経て、2019年から、フリーランスの写真家として活動をされています。僕と同い年の、35歳。現在は、愛知県を拠点に、全国で活動をされている方です。
彼のことが好きです。まだ、2回くらいしか会ったことはないのですが、彼に会うと、なんだか不思議と、おだやかな気持ちがする。やわらかな、繊細な、なんとも言えない空気を身に纏う方なのです。その空気は軽くて、なんだろう、目には見えない、薄い毛布のよう。
高重さんの『最後の旅』を観るにつけ思うのは、彼がとても誠実な写真家である、ということです。「身の回りで起きたことを淡々と撮った」という、その写真集に並べられた写真たち。その「淡々と撮る」という営み、その自然さ、そのまっすぐな視界からしか写されることのないような、その時々の世界の相貌、人物や事物たちの風景が、そこには、ある。「淡々と」とはだから、手を抜くとか、機械的にとか、そういうことではないのだと僕は思う。「写真には撮る人のすべてが映る」と語る、彼の言葉から察せられるように、彼はその時々のすべてで一枚の写真を撮る。そうして撮られた写真たちには、その時々のすべてを通したそれぞれが写っている。だから、「高重さんの写真って、こういう写真だよね」とかは、容易に言えない。スタイル以前の生が、まとまることなくまとまっている作品集だから、なおさらのことだ。1ヶ月ほどかけて、撮り溜めた写真を見返しながら、その写真に秘められた多様な意味を読み解いていかれたという高重さん。映画のようでもあり、保坂和志さんの言葉を引用して語られるように、小説のようでもある。それは、流れとしての。
高重さんの写真の、プリントされたもの、写真集というかたちではなく、展示された写真たちからは、いったい、どんなものが、見えるだろうと、僕はこの展示を、とても、楽しみにしています。きっと素晴らしい展示になると思いますので、みなさん、ぜひとも観にいらしてください。展示期間中には、なにかのイベントも、あるかもしれません。お子さんが生まれたばかりで、忙しい日々を送っておられる高重さんですが、今、そのあたりの詳細を、構想してくださっていますので、いろいろまた新たな情報がありましたら、お知らせさせていただきますので、なにとぞよろしくです。
普段、写真を観に行ったりしない方や、写真集など買ったことのない方、ぜひ、観てください。きっと、写真って、こんなにも自然に生を写すことができるのか、そして、写真とはこんなにも豊かなものなのか、と、観えるのではないかと、僕は期待します。よろしくどうぞ。たのしみに。