清水雄也 初個展
海に小舟が傷を残すとき
2024.3.3〜2024.3.30
金土日月13〜18時
20日(水)のみ13〜22時
at庭文庫
ごあいさつ
正直に言ってしまうと、僕にとって写真という媒体が重要な意味を帯びてきたのは比較的最近になってからのことです。
それまでは多くの人と同じように、ただ日常的に、無意識に写真を撮っていました。日々会う友人や見る風景など、ありとあらゆる写真が何千枚という単位でフォルダの中に溜まっていきました。そしてこれもまた多くの人がそうであるように、残された膨大な写真を見返すようなこともほとんどありませんでした。
写真を撮るという行為に自覚的になり(つまり自分は今自分にとって大切になるかもしれない写真を撮っているのだと思うようになり)、折に触れて見返すようになったのはこの1年くらいのことです。そしてそれはなぜか物語というものに対して強烈な関心を抱き始めた時期とも重なっています。こうしたことがどのようにして自分の身に起こったのか、今では上手く思い出せません。
今回展示する写真は、20歳から26歳の現在までの6年間にわたって撮り溜めた(撮ってあった?)ものですが、必然的にこの1年間で撮影したものが多くを占めることになりました。
それから3分の1ほどのスペースを使って、持っている本や主催している読書会で読んだ本も紹介文とともに売っています。自分にとって大きな意味を持つようになった作家について、少しなりともまとまった文章を書いておきたいという気持ちがあったからです。またそれによって、僅かであってもそれらの本たちが誰かの手に渡ることがあれば、こんなに嬉しいことはありません。
最後に、展示名は宇多田ヒカルさんの「夕凪」という歌の一節から取りました。ぼんやりと写真を眺めていて、ふと浮かんできたのがこの一小節だったからです。
初めてこの曲を聴いたときの心の震えを、僕は今でもありありと胸の内に思い出すことができます。そして自分だけの、特別な風景がある場所に行くことができます。それは普段は巧妙に隠されていて意識に上ることはまずありません。まさに海につけた傷のように、すぐに次の波に覆われて見えなくなってしまいます。けれども一度そこに行くコツのようなものさえ身につけてしまえば、海の奥にとぷんと潜って違う世界に行ってしまうみたいに、いつでも好きな時にその場所に降り立つことができるようになります。
心の中にそうした個人的風景を持っていることは、人の一生における素晴らしい達成のひとつではないかと25歳を過ぎて思うようになりました。
清水 雄也
Instagram:yu__4690
【プロフィール】
清水雄也
1997年、岐阜県生まれ。愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科卒業。同大学大学院博士前期課程国際文化研究科日本文化専攻修了。中学・高校非常勤講師を経て、現在多治見市モザイクタイルミュージアム学芸員。
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