岐阜新聞の素描欄にて2018年9月~10月の毎週土曜日、全9回で掲載された庭文庫店主百瀬実希の文章を紹介します。 白い紙に黒いインクで書かれた文字がどうして知らない世界に連れて行ってくれるんだろう。それは、…
草木の一生
二年前の夏、長野の上高地を訪れた。前の晩降った雨が嘘のように、静かな小川と高い空の間を歩いた。水辺に草木が揺れていた。唐突に、「木になりたい」と漏らす当時の恋人の憧れがわかったような気持がした。 草木は、人を喜ばそうとは…
文化のかおり
この前の土曜日、ジャズライブを見に行った。心身から湧き上がる音とガラス戸の向こうの緑とあたたかな古い電球。もう三日も前のことなのに、うまく感想を言うことができない。本当に好きなものの理由は言えない。ドラムの後ろに荒野に沈…
意味の向こう
雨が降っている。昼は春の風が吹いて、マフラーもコートもいらなかった。日本語には雨の名前がいくつもあるという。わたしははそれらを知らない。 言葉があるから感じ取れることがある、と教えてくれた本はジョージ・オーウェル『198…
この一冊:『ねこはしる』工藤直子
『ねこはしる』工藤直子 動物や木々が人間以上に慈しみを持っていると感じている人は少なくないかもしれない。工藤直子さんも、きっとそういう人のひとりだ。 慈しみと書くと、慈愛の精神のようにおもってしまうけれど、それは自他の境…
詩は乗り物
詩が好きだ。 でも、いまいちなんで好きかはよくわからない。 嫌いなことを説明するのは簡単だ。新宿は人が多すぎて苦手だし、夜の森は幽霊が出そうできらい。ジェットコースターは、死んでしまうんじゃないかという恐怖ばかりあって絶…
初出店を終えて
土曜日のイベントが終わって、でもまだふわふわしたきもちでいる火曜日。 イベントに来てくださった皆様、遠くからあたたかく見守ってくださった皆様、本当にありがとうございました。 「お店屋さんごっこみたいだ」と思いながら、準備…
震える弱いアンテナ
ばたばたと値付けをしたり、お釣りを準備したり、どきどきしながら初出店の土曜日を待っている。 まさか、本当に古本屋さんをはじめられるとは、驚いている。 去年の今頃は、まだ東京で働いていた。三鷹のお家から東西線直通総武線に乗…
生きる道具
生きているってどういうことか、と聞かれたら、変わってゆくことと答えるだろう。わたしと同じ速度でなくとも移り変わっていくものを生き物としかおもえない。 そうなると、本はもちろん生き物だ。まさか文字が動くはずもなく、物質とし…
庭文庫 はじまります!
岐阜県恵那市に越してきて数か月。 古本屋さんがないさみしさを、自分自身で古本屋さんになってみる、ところから埋めてみる。 1月14日、えなここさん主催でのイベントで初出店予定! 開業イベントも行う予定です。 どうぞいらして…